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アニマルウェルフェアを学ぶ

 アニマルとは動物ですね。ウェルフェアとは、ウェル(wel:望みに沿って)+フェア(faren:生活する)という語からなっており、動物が望みに沿って生活するとの語源を持っています。動物はどんな望みを持っているのでしょうか。皆さんと同じように、まず、生きるか死ぬかに強く影響する餌や水の栄養摂取に関する望みや、休憩したり、病気や怪我の予防につながるべく体を繕ったり、暑さ・寒さや捕食獣から逃れたりできる望み。二番目には、生活をより良くするために環境を探査したり、仲間と仲良くしたりする望み、さらに三番目は人生(動物生)を豊かにする遊びたいという望みです。
 昔の畜産では、一番目の望みだけに腐心していました。21世紀に入り、二番目の望み、さらには三番目の望みにも配慮することが、畜産的にもSDGsとしても重要だと認識されるようになってきました。望みの抑圧は心の健康を害し、ひいては体の健康にも影響します。従って、動物の生産力にも影響しますし、効率的になれば温室効果ガス排出も抑制的になります。健康になれば、栄養は病気でなく生産に振り向けられますし、抗生物質使用量が減少することで薬剤耐性菌出現も抑えられます。物言わぬ動物の心にまで配慮することは、人々の多様性の尊重や暴力の抑制にも通じることとなります。
 2022年度から「動物福祉論(アニマルウェルフェア)」を正式に開講します。歴史に始まり、アニマルウェルフェア改善の方向、科学的評価方法、牧場レベルの評価法、集約畜産に代わるアニマルウェルフェアに配慮した飼養システムを講義と実践を通じて学びます。人にも動物にも環境にも有益な持続的な畜産を一緒に構築していきましょう。(文責・元畜産部長・佐藤衆介)

 本校の元畜産部長・佐藤衆介先生は、日本におけるアニマルウェルフェア研究の第一人者です。

・帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科元教授
・東北大学名誉教授
・応用動物行動学会初代会長、畜産学教育協議会会長、日本畜産学会理事、日本草地学会学会賞選考委員長、仙台市動物愛護協議会会長、エンリッチメント大賞審査委員、環境省動物の適正な飼養管理方法等に関する検討委員など、多数を歴任。
・専門分野:畜産動物行動学、動物福祉学
・主な著書
 『人と動物の関係を考える』共著(2018年)
 『動物福祉の科学――理念・評価・実践』共監訳(2017年)
 『動物行動図説』共編著(2011年)
 『動物への配慮の科学――アニマルウェルフェアをめざして』共監訳(2009年)
 『アニマルウェルフェア――動物の幸せについての科学と倫理』単著(2005年)
 『家畜行動図説』共編著(1995年)

関連する報告書

「AWの科学的評価法確立と実証拠点農場構築事業」報告書(2022年3月公表)(9.08MB)

アニマルウェルフェアとは?
 アニマルウェルフェアとは、動物を身体的にも心理的にも健康に育てようとする飼育法です。
 1960年代にイギリスで議論が始まり、1990年代にはアニマルウェルフェアで飼育された畜産物が販売され始めています。
 アニマルウェルフェアでは、次の5つの配慮の側面が提案されています。
 ①適正な餌と水、②不快にさせない物理環境(暑熱・寒冷、メタンガス、暗がりなど)、③病気・怪我の回避、④丁寧な取り扱い、⑤適正な行動を引き出す環境(放牧、ワラ寝床、穀物のほかに草を含む多様な飼料の給与)。
牛のウェルフェアとは?
 牛は日の出とともに起き、地面から生えている草を舌で絡めて、下の前歯とまな板のような上の前歯のない歯茎で挟み、頭を前後に振って食いちぎり、飲み込みます。非常に規則的で1秒1回くらいの速さで1~2時間食べ続けます。その後、横になり口をもぐもぐさせます。胃から食塊を吐き戻し、約50回かみ砕き、再び飲み込むという反芻という動作で、1日8時間も費やします。この時、牛は目を半開きにし、まどろんでいます。横になっている時間は14時間にも及びます。規則的な動作ができ、反芻による長いまどろみや横になっている長い時間を快適に過ごせる環境を作ってやることが心の健康に重要です。

cow
豚のウェルフェアとは?
 豚は、日中の半分は寝ています。次いで日中に多い過ごし方は穴掘りで、1/4も費やします。そして土の中から何かを見つけてはクチャクチャ齧っています。残念なことに、一般には、肥育豚はコンクリート床か、スノコ床で飼われますので、穴掘りも出来ないし、クチャクチャする物もありません。1頭当たり1m2 弱の面積で飼われていますので、仲間の腹下を掘ろうとしたり、しっぽをかじろうとしたりします。本校では、SPF(Specific(特定の)Pathogen(病原体)Free(無い))といわれる子豚を肥育しています。すなわち、豚が罹りやすい病気である豚赤痢、オーエスキー病、萎縮性鼻炎、豚マイコプラズマ肺炎にかかっていない子豚を、衛生的な広い放牧地で育てています。病気もせず、すくすく育ち、一日900gも太り、香り豊かで、豚臭さがなく、軟らかい豚肉を提供してくれています。

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鶏のウェルフェアとは?
 2020年8月までは、ひとつのケージに2羽の産卵鶏を入れ、薄暗い舎内で飼育してきました。1羽当たりの飼育面積はB5紙サイズ程度でした。運動をできるだけ抑えることで、餌を効率よく卵に変換してもらい、安価な卵を供給してきましたが、アニマルウェルフェア改善の観点より、本校でも旧来の飼育方式から平飼い・放牧方式へ変更しました。従来通りの清潔で適正な飼料や水の提供、衛生管理の徹底、快適な飼育環境の提供、穏やかな取り扱いに加え、家畜が実行したがってる行動(飼料探し、巣作り、砂浴び、止まり木止まり、伸びや羽繕いなどの慰安行動、仲間との社会行動)を刺激する環境を整える飼育システムです。日の光を浴び、草を食べ、心身ともに健康な鶏から産まれる卵は美味しく、栄養的にも好ましいものです。

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